Debut Concert at Tokyo

Rapsodie pour saxophone et orchestre / Debussy

Sax solo/Shiro Hatae
Direction/Shigeo Genda
Kanagawa Philharmonic Orchestra

the8th fev. 2001
at Takemitsu Memorial Hall, Tokyo

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去る2月8日、オペラシティ・タケミツメモリアルホールで行われた文化庁主催「明日を担う音楽家による特別演奏会」にソリストとして出演しました。

このコンサートは帰国した文化庁芸術家在外研修員のなかから、毎年数名が選ばれ行われています。僕は平成9年度から二年間、この在外研修員としてパリ音楽院で勉強しました。

在外研修員というとかなり大げさな感じなのだけれど、早い話が奨学金です。しかしながら、研修中は準国家公務員の出張といった感じの扱いで、お金も日給という名目で振り込まれるし、その決まった期間内は日本に帰ってきてもいけない、という条件付なのです。その間、仕事もあったのにぃ(涙)といっても無駄なのです。人生とは厳しいのです。そうなのです。俺は幸せ者なのです。国民の血税を無駄にしないように頑張ってまいりました!洋服も買っちゃったけどm(__)m

パリ音楽院の1年生の時に何か奨学金を受けたくて、当時(今もかな?)「すでに海外に暮らしていても受けられる奨学金制度」は、この文化庁のものしかなく、ダメモトで受けてみたらうまくいってしまいました・・・。どういう基準で選んでいるのかいまいちよくわからんのだけどね。ま、もらえたし(爆)っと前置きはこれぐらいにして本題へと移っていくのだ。

今回のソリストは僕を含めて、総勢9名。
N響ファゴット奏者の井上俊二さん、ヴァイオリンの石橋幸子さん、ヴィオラの金丸葉子さん東京交響楽団のトランペッティスト大隅雅人さん、イングリッシュホルンの篠崎隆さん、クラリネットで現在もフランスのリヨン音楽院にて修行中の原田綾子ちゃん、桐朋出身のピアニスト鈴木謙一郎さん、同じくピアニストでベルリン音楽院にいる奈良希愛さん・・・と若いなりにもものすごい肩書きと経験をもったソリストばかりだった。皆さんとってもいい人だったし。
コンサートのプログラムとしてはデュオコンチェルトが3曲あったので、全体で6曲。

1.ウェーバー/ファゴット協奏曲 ヘ長調 OP.75(井上)
2.モーツァルト/ VlとVlaのための協奏交響曲 K.364 (石橋・金丸)
------------休憩--------------
3.コープランド/静かな都市(大隅・篠崎)
4.ドビュッシー/クラリネットのための第一狂詩曲(原田)
5.ドビュッシー/サクソフォンのための狂詩曲(波多江)
6.プーランク/2台のピアノと管弦楽のための協奏曲
(鈴木・奈良)

こういうプログラムって、俺にとってはけっこうプレッシャーが大きかった。未だ日本の楽壇では「サックスってなに?ジャズの楽器じゃないの?」というちょっと偏った視線で見られてしまう。それにもまして、日本ではまだ知られてないし、しかもデビューだし・・・不安材料は考えれば考えるほど出てきて、最初のオケあわせまではかなり死んでました(爆)


楽屋で音だし。見ているのは楽譜ではなく、パソコン雑誌(爆)

GPで。本番はこの1500人収容のホールがほぼ満席。
オケは神奈川フィルハーモニー管弦楽団、指揮は現田茂夫氏。最初のオケあわせは、ともかく緊張だった。練習室は吸音効果がたかく、弦の音程も良くわからなかったし、後ろの管楽器の音は聞こえてこないし、オケのメンバーとも打ち解けてないし。室内楽でもそうだけど、初めてあわせる時って俺はすごく緊張する。相手の出方もわからないからね。

現田さんはとても気さくで明るい方なので良いコンタクトをとれたと思う。実は東京音大出身(G大の前)で、指揮科では、僕と同門の汐澤安彦門下生であられ、僕の大先輩なのですね。そんなこともあってか、僕にとってはとても近づき易かったし。

このドビュッシーのラプソディはオリジナルでやるとサクソフォーンの活躍する部分が少ない。だから今回はちょいとアレンジして、他の木管の「おいしい」ソロの部分を頂戴したりしたので、あわせる時間が少なくなるんじゃないかと心配していたのだけれど、事前に現田さんから打ち合わせの時間をいただいたので、スムーズに合わせることができました。この段階でコケちゃうとオケのメンバーもやる気無くしちゃうからね。すごく要領のいい指揮者です。フランス人も見習ってくれい!

練習が終わるころには緊張も解けてきて、少し安心できた。わりとうまくいってたから、自信もついてきたし。「さぁ、明日は本番ぢゃー!!やるぞー!」という気になれました。

当日は2時に楽屋入り。姉貴が一緒に来て身の回りの世話をしてくれた。お袋にはチケット関係の連絡等一切任せてしまった。こんなときは身内の人間の支えが身にしみる。ちなみに、この写真たちも姉貴の作品(よくできましたー。ぱちぱち。)

GPは本番の順序だったので、俺は最後のほう。最初の井上さんのGPを聴かせていただいた。かなり響く。お風呂状態。「細かい音符に時間をかけてていねいに」を、この日のモットーに(なんでやねん)GPに臨みました。でもやっぱりホールがよく響くほうが楽しい。

オケがTuttiでなるクライマックスには、このでかいホールを見回して一人で感動していました(爆)だってほんと、舞台から見ると後ろの方の席は霞がかかってるかのように、遠くに見えるんだもんね(目悪いんとちゃう?)

GPも終わり精神的にはかなり楽になったものの、新たな問題も浮上してきた・・・オケとのバランス。クライマックスではオケも鳴りまくってるし、ホールの残響もあるので、どうしてもソロが聞こえない状態になってしまうのだ。。座席で聞いていた音楽は素人の姉貴もそういっていたぐらいで、けっこうショックだった。自分としては、かなり吹いているはずだったし。途方にくれる。「あきらめるしかないのか?」

しかし救いの神は現れた。このコンサートのプロデューサである岡山氏の一言。
あまりにも素晴らしかったのでそのまま引用したい。


暗譜だと、どこ見ていいか未だにわからん(笑)


「ソリストはお客さんを楽しませてくれなきゃ。」

とてもシンプルで、デリケートなこの一言を本番を数時間後に控えた演奏者にそれとなく言える人はそうはいないと思う。決して嫌味な感じではなかった。それどころか、俺はとてもよい「喝」を入れられたのだ。そう、GPまでの俺はジャイアンのように自分本位だったのだ。

この言葉がどんなに自分を勇気づけただろう。自分の未熟さを恥じたが、逆に「未熟だからこそ可能性があるのぢゃぁ!ここで守りに入るな!!攻めぢゃ攻めぢゃ!!」と自分に言い聞かせることができた。「俺はサクソフォニストである前に、エンターティナーなのだ!」とも。そう、音量的な問題よりも、俺自身の存在感で聞こえにくい音も聞こえさせることができるんだ。それがライブなんだ。

それだけに本番は気合が入った。これまでのどの本番よりも集中力があったと思うし、自分も楽しめたかもしれない。ホールに入っているお客さんたちを見回す余裕すらあった。

緊張はしていたけど、こうなるともう怖いものなどない。お客さんからもかなりのエネルギーをもらった。自分のためではなく、観客のために、音楽のために吹いた。指揮者やオーケストラとのコンタクトもとてもうまくいった。楽しかった。

↑は実は最初の拍手の写真。(お母さんには内緒だぜ。)
最後の和音。轟くような拍手。オーケストラからも足を踏み鳴らす音が聞こえる。最高に幸せな瞬間。これは麻薬だ。これを得るためにこれからも日々努力しなくては。

しかしながら大きな舞台は学ぶものも大きい。

コンサート全体の雰囲気もとてもよいものだった。共演者たちの演奏もみな素晴らしいものだったし、プログラミングもクラとサックスをドビュッシーのラプソディでぶつけるあたり、話題性にも富んだ憎い演出だったと思う。

後に聞いた評判もとてもよかったし。
「華がある」って…
えへ。てれるなぁ。
録音聴くと改善の余地はまだまだあるけどね。
それはそれ。かな?

ともかく、日本でのデビューを飾るのに最高の舞台で、無事演奏できて「ほっ」としました。

岡山氏をはじめ、現田さん、オケの方々、支えてくださった関係者の方々、姉貴とお袋、そして誰よりも聴きにきてくださった皆様に厚く御礼申し上げます。有難うございました。

これからもますますがんばります。よろしくね。(^-^)v


最後にソリスト全員が舞台に上がって閉幕。お疲れさまー。